今回の旅は、美しい海岸を求めて、フランス大西洋岸のサンジャンドリュツ、スペインのサンセバスチアン、一旦、ピレネーの内陸に入りユージェニーレバンに寄り、その後ボルドーの北にある、大西洋岸のラロッシェルに行き、帰りにシャルトルを見てくることにしました。

出発はオッケー

成田発、エールフランス273便に乗ることにしました。15回目のフランス旅行を記念してビジネスクラスを奮発しました。半年前に仕込んだソニーの株式が値上がりして来たこともあって、一度くらい豪勢に行って来ようと思ったからです。荷物のチェックインが終わると、係りの人がエールフランスの待合いラウンジの入場券をくれたので、行ってみました。中にはいると、新聞雑誌、飲み物、軽食がセルフサービスで設置されています。テーブルランプ付きの椅子があり、そこで待ち時間を過ごすわけです。椅子に座ってフランスの新聞Figaroを開けてみると、一面、日食の記事です。前日、日食の帯がフランスを駆け抜けたのが図で示されています。そのうち、背後でしゃっくりの音が聞こえてきました。いずれ治まるだろうと思っていましたが、しゃっくりは続いていて、しまいには声の主が泣き出しています。たまらず、行ってみると、金髪青い目のかわいいい赤ちゃんが、ベビーカーの中で、しゃっくりしています。傍らのフランス人の母親に、私は内科医だと告げて、早速、しゃっくりの治療にとりかかりました。(しゃっくりの治療は案外むずかしくて、医師の間でも、これといった決定的な方法はありません)以下は、私の自己流の方法ですが、過去におよそ半分の例で、効き目がありました。しゃっくりは胸と腹の境目にある横隔膜が規則的に収縮して、その結果、のどで空気がヒックと鳴るのです。この横隔膜を支配している神経は、首の骨(頚椎)の両横から出て胸腔の中心部を真っ直ぐ降りて横隔膜に達しているのです。そこで、私は、赤ちゃんの首の真ん中付近を、左右両脇から私の親指で皮膚を骨に向かって圧迫します。しゃっくりをしているときは、親指にぴくっと神経の振動が伝わってきます。母親はびっくりして見守っています。30秒ほど圧迫しましたら、見事しゃっくりは止まりました。泣いていた赤ちゃんは、今は笑顔で私を見つめています。昔、大の男をプロレスよろしく、ベッドに寝かせ、私が首をチョークではなく側面から圧迫して組み伏せて、しゃっくりを止めてやったことがあります。健康保険診療の項目に、このような治療の点数は書いてありませんので、治療費はゼロです。今回ももちろん只です。21時55分エールフランス機は成田を離陸。その後、仕事が一段落してくつろいでいる機内乗務員に、しゃっくりのことをフランス語で何というのか聞いてみましたら、Hoquetと書きオッケーと発音するのだよ、と教えて下さいました。旅の出発はオッケーです。

シャルルドゴール空港

機内でエールフランスの機内誌を見ていた妻が、今年のミッシュラン三ツ星レストランの記事が載っているよ、でもミッシェルゲラールは無いよ、二つ星に降格したのかしら、と物騒なことを言う。せっかく、長年の夢であった三ツ星レストランに行く旅なのに、そんな馬鹿な。あわてて、その記事を見ると、ちゃんとプレドユージェニーが、三ツ星の中に書いてあるではありませんか。レストランの名前そのものがミッシェルゲラールだと彼女は思っていたのでした。ああ驚いた。

小さな液晶の映画は迫力なし。音楽もこれといった番組なし。唯一、良かったのは、ゆったりと横になれて、足が伸ばせることです。機内食の塩、コショーを今後のためにため込もうとしても、ビジネスクラスは紙パック詰めが少なく、小さな塩コショウ容器で出てくることが多く、食後は返すことになり、ほとんど備蓄できない。食事は何が一番おいしかったかって? それは、やっぱり、パンをいただくのを控えておいて、食間に頼んだ日清のカップヌードルでした。と言ってるうちに、機は定刻通りパリ・シャルルドゴール空港に早朝4時25分到着。何かすっかり、様変わりしてしまって、新しく改装されたようです。早速、円をフランに両替しにいくと、まだ、早朝なので、閉まっています。唯一開いている案内窓口のお嬢さんにうかがうと、やおらコンピューターの画面を開いて確認して、朝6時から両替所は開きますとのこと。じっと時間までベンチで待って両替し、標識に従って、空港ビル内の直結通路をフランス国鉄SNCFの駅まで200メートルほど歩いていきました。ボルドー経由サンジャンドリュツ行きのTGVの座席予約をすると、ボルドーまでは1等の指定座席があるが、その先は、2時間後の列車しか空席が無く、それも、1等指定なしの席2枚と、2等指定席有り1枚に分かれてしまう、といわれて、とにかくたどり着けばいいから、その3枚を下さい、と申し込むしかありませんでした。席料は一人当たり30フランでした。

TGV内にて

7時45分発アンダーユ行きTGV。始め空いていた車内は、途中の駅からどんどん乗り込んできて、ほぼ満員になりました。前の席のビジネスマンがノートパソコンを開いて、エクセルに数字を打ち込んだり、携帯電話をかけたりして、忙しそうです。今度は、隣の青年がIBMのノートパソコンを取り出してCD-ROMを入れると、ゲームを始めました。ひげもじゃで、こわそうな顔の人ですので、恐る恐る、あなたはインターネットの方はなさるのですか、と聞きますと。いや、まだまだ出来ません。そのうち、したいとは思っています。と言う返事で会話は途絶。4時間でボルドーに到着。なんと、大半の客が列車を降りてしまうのです。そこで、計画変更です。この先の指定席券は、2時間後の別の列車のものしか手に入らなかったので、私達の席はここで終わりのはずですが、このまま降りずに、この列車で行こう。私達は、一応席を離れて、車両の乗降口付近の折り畳み椅子に移動しました。列車は走り出しましたが、不思議なことに、ほとんど乗客はボルドーから乗り込んでこないのです。以前の私達の座席も空席のままです。一体、空港駅の駅員の話はどうなっているのかしら? 列車のビュッフェでシェフのサラダとサンドイッチ、エスプレッソを買って昼食。半信半疑のまま指定席券を持たずに、元の席に座り、そのままサンジャンドリュツに15時11分到着。(駅員に当初言われたよりも2時間得しました)

サンジャンドリュツ (その1)St Jean de Luz

サンジャンドリュツの駅を出るには、到着ホームの端から下に向かって階段を下り、歩道に出てからガードをくぐり、再び登って、駅の正面の道路を越えたところに出ます。列車や車の交通を妨げないためですが、重い旅行鞄を持って出るには一苦労です。ただし、帰りのボルドー、パリ方面に行くホームへは、歩道からエレベーターで上がれるので楽です。蛇足ですが、駅正面には、タクシー乗り場がありません。この町にはタクシーが無いのかと思ったら、駅裏側に駐車場があり、タクシーはそこから乗降するのです。

10数年ぶりで、この町に来ました。いつも心にそのときの情景が浮かんで、またいつか訪れようと決めていました。というのは、前回は夏のバカンス時に、ぶっつけ本番でいろいろホテルをあたったのですが、いずれも満室で全滅。美しい町の景色を横目に、日帰りしなければなりませんでした。今回はそれを教訓に、4月に目的の中堅どころのホテルに申し込みましたが、その時点ですでに満室でした。唯一空いていたのが、客室100の高級ホテルHelianthalでしたのでそこに決めました。室料は高いけれど、しかたがありません。その代わり、海岸のど真ん中にあり、水着のまま海に行けるし、朝食をとるレストランからの眺望も抜群です。ホテルの中を白いタオル地のガウンを着た人達が往来しています。タラソテラピー研究所を併設していて、そのために宿泊している人達なのです。海水を使ったプールで体操をし、ジャグジー風呂、サウナにはいり、海を見ながら新鮮な空気を吸って長椅子に寝そべったりするのです。

海岸は、湾のように入り江になっていて、大西洋との境目にはがっちりとした防波堤がありますので、流される心配が無く、きれいな砂浜ですので、海水浴客でにぎわっています。私達をのぞくと、地元のフランス人ばかりです。前回は、けっこう海藻が打ち上げられていましたが、今回は、沖合いに船が巡回していて、網で海藻をすくっているので、海藻は少ししか見られず、水温も適当で、とても泳ぎやすい海水浴場です。とはいえ、翌日は結構波が高かったのですが、それが、また子供にとっては面白く、水着の中まで砂いっぱいにして、波とたわむれていました。海岸にシャワーもありますが、私達は、足を洗うだけで上がり、本格的にはホテルのバスで着替えました。

インフォーメーションは駅から徒歩5分、港の近くにあります。着いた日は金曜日でしたので、バスクのコーラスの音楽会、そして、バスク地方伝統の球技であるPelote basuqueペロタの選手権が開かれるということでした。早速、市街地図をもらい、そこに会場の場所を印していただいて、Peloteの入場券を買いました。子供の座席は無いので階段に座ること、その代わり、無料。ああフランスの太っ腹なこと! 競技場は町外れの丘の上にあります。どうみても、徒歩30分はかかるでしょう。試合は午後9時開始ですので、その前に夕食を済ませなければならず、がぜん忙しくなりました。ところが、どのレストランも7時半からオープンということで、それでは間に合いません。クレープじゃ軽すぎるし、バーしか空いてません。探し歩いて、ふと見ると、鳥の焼いたのとじゃがいものフリットと書いてあるバーを見つけました。ビールとマンタロー(甘いミント水)を頼んで、まず一杯飲んで、暑い中を歩き疲れた身をリフレッシュ。ここでも、夕食は7時から出す、といわれて、しばし休憩。天井をみると、いろいろなスポーツ用具が飾ってあり、店名もLe Sportif といいます。安く、早く、おいしい料理と、後先にも最高においしいアイスクリームをいただいて、巡り合わせを感謝しました。ところで、ここはどこなのさ。マダムに、ヌソムウーと聞いたら、地図にマークを付けてくれました。幸い、そこは一番のメインストリートのBoulevard Victor Hugoto通り沿いで、この道を真っ直ぐ進めば、Pelota Basque の競技場に行けるのです。会場は、室内にあります。テニスコートの片面を3個連ねたような細長い硬い床のコートを固い壁が3方から囲っています。残りの1方が観客席で、階段状になっています。コートと観客席の間には天井までネットがはられています。ヘルメットをかぶった選手は2名一組で戦い、テニスのダブルスのように、お互いのチームが、かわりばんこに球を打ち合います。始め手に装着した網かごのような道具でゴルフボールより一回り大きな硬球を壁に打ちつけ、それをワンバウンドまたはノーバウンドで腕先のかごで受けとめてから腕を振って勢い良く壁に打ち返すのです。そのとき、壁の枠からはずれたり、球を受け損なったりすると、相手に得点が入るというルールです。前座は30得点で、プロは15得点で1ゲームです。早く2勝したほうが勝ち。

カキーン、カキーンという、白球の壁に当たる音がすがすがしい。10時半ころから、プロの試合が始まりました。流れるような美しいフォームで試合が進んでゆきます。勝ち抜いたチームの決勝は9月にあるそうです。明日の行動に差し支えるので、プロが5点を取るところまでみてホテルに帰ると、すでに11時を過ぎていました。

(サンジャンドリュツその2)に続く

サンセバスチアンにジャンプ