旅と醤油


この頃は、欧州旅行に醤油を持参することにしている。以前は、のどの渇きにミネラルウオーターと食塩を使ったが、体調が悪かった。つぎに、水道水にポカリスエット粉を入れて飲んだら元気になったが、そのうち無性に中華料理を食べたくなった。日本では毎日醤油を使うのに、旅に出てからは醤油を一度も口にしていないからであった。そこで、醤油の小袋を持参し、西洋料理で胸がムカついた時に水に加えて飲むようにしたら壮快になった。現地の友(ドイツ人、ベルギー人)には瓶入醤油をおみやげにした。豚バラ肉(Bauch)の塊を薄くスライスし、玉ねぎ(欧州のは概してこぶり)をすりおろし(Reiben)、鍋で沸騰させた湯の中で肉を煮た。それを、おろし玉ねぎと現地の酢そして我が醤油の三者を混ぜたタレに付けて食べてもらったが、いずれの家でも大好評であった。欧州でも米国製キッコーマンが売られてはいるが、彼等はちょうど我々がタバスコをピザに振りかける程度にしか醤油を使わず、料理のかくし味にしているようだ。アントワープ駅前には超級市場(華僑のスーパーマーケット)があり、一般市民にも東洋の味が広がってきている。寿司と共に醤油も益々国際化し、将来は醤油が欠乏すると体調を崩す西洋人が出てくるかもしれない(とは誰しも思わないだろう)。醤油瓶をおろして軽くなったのも束の間で、ビネガー、ワイン、バターなどを買い込んで、前にも増して重い荷物を持って帰国する様は、我ながら馬鹿なことをしているものだと思う。