夜行寝台列車

飛行機が遅れて着いたので、急いでパリ北駅に行ったが、もう午後11時だった。予定より1時間も遅い。目指す夜行列車の出発は午後11時32分だから、あと30分しか時間がない。急いで切符売り場に走る。「こんばんは。今日の寝台列車でアントワープまで行きたいのですが。」、「どこまでだって?」、「アントワープです」、「わからないな、どこだって?」、「つまりそのーここです」、とAntwerp と書いた紙を渡すと、「ああ、アンヴェルペンね」。フランス語では地名まで英語と違うから困ってしまう。そして「この窓口は明日の切符を売るところだから、向こうの窓口に行ってください」と言われ、反対側の窓口へと走る。そこでは、「ここではなく、直接列車の所で切符を買ってください」という返事。もう乗り遅れるんじゃない?切符なしで寝台車なんかに乗れるわけないだろう。こんなことなら、ホテルを予約しておけばよかったねとボヤく。こんな夜遅くじゃホテルも空いてなから、とにかく列車まで行ってみようよ。ということで再び走った。すると、何のことはない、各車両の入り口で車掌さん達が待機しているではありませんか(日本とちがって、改札口が無い代わりに、複数の車掌さんが列車に乗り込んでくる)。そして、その場ですんなり寝台車の座席指定乗車券を発行してくれました。ガイドブックにはこのような具体的なことが書いてないので、私達は大汗をかいて走り回ったのでした。やれやれ、やっと乗れた。コンパートメントは2段のベットが向かい合っていて、一部屋4人です。私と妻、そしてオランダ人らしき大柄な夫婦。彼等は私に向かって、おまえは上段に寝るのか、下段に寝るのかと、しきりに聞いてくる。どちらだっていいだろうにと思ったのは、初心者の私の経験不足。彼等は私の視線が彼の妻に届かない位置になるように寝るために聞いてきたのでした。こちらだって、別に美人でもない中年肥りの奥さんの寝姿なんて見たくもないのに。列車はすぐに発車した。旅なれたその奥さんは、もう、いびきをかいている。こっちは全然眠れない。真っ暗な中を列車は走っていく。かと思うと、途中でずいぶん長い時間停車している。そうか、走り続けていては、夜が明ける前に目的地に着いてしまって困るのか。ようやく、うとうとしかかると、突然、車掌さんが入ってきて、国境を越えるので彼にパスポートを預けるようにと言う。もしパスポートが戻って来なかったらどうしよう、と思うと不安になり、ますます眠れない。でも、ちゃんと翌朝パスポートを返してもらって寝不足のままアントワープ駅におりた。夏なのに寒い風の吹く早朝だ。駅のビュッフェで熱いコーヒーを飲もう。夜行寝台車は時間の節約にはなりますが、疲れます。

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