フロに行く
 

パリとも明日でお別れの晩、私たちはホテルでシャワーを浴びて席を確保するためいつもより早めにフロにいくことにしました。ミシュランのパリ市街地図をたよりに、うらぶれた細い路地を歩いて行くと突然、ネオンの輝くすてきなフロの建物の前に出ました。正式にはBrasserie Flo といいパリ10区にあります。ブラッスリーとはビヤホールの意味、フロとは創設者のFLODERER 氏からとった店名です。軒下では二人の男が貝をナイフでこじあけていて、私たちの顔を認めると知っている限りの日本語で”カキ、エビ、アサリ”などと叫んでいます。午後7時だというのに店内はほぼ満席で、応対に出たメートルドテール(ボーイ長)に”予約してないのですが”と告げますと、少し思案してから、奥の方のテーブルに案内してくれました。店内は1900年頃からの内装で歴史を感じさせ、長く黒い前かけを身に着けたハンサムなギャルソン(ボーイ)は、勢いよく走るが如く往来し、磨きあげられた床をスーッと滑って来て、テーブルの前でピタっと止まるのです。ビヤホールの歴史にこだわって、まずはゆでたハム、ソーセージの肉塊にザウワークラウト(発酵酢キャベツ)を付け合わせた、”シュークルト”を、私たちは7名なので、3皿注文をしましたら彼のボーイ長さんが、”1皿にしときなさいよ”とおっしゃる。白のハウスワインはとてもおいしいけれどシュークルート1皿を皆で食べたらやはり物足りない。つぎに、ボーイ長さんが薦めて下さったのは、”シャンパン風味の白身の魚料理”でした。それはとびきりおいしく、そして量が多く、全員満足、満腹になってしまいました。やはりボーイ長さんに従ってよかったのです。デザートになると、もう”軽いところでシャーベットを”と言う人達が半分、あとの半分の人達は私の選んだ”アイスクリーム盛合せのチョコレートかけ”を選びました。ところが出て来たものは、皿の上にアイスクリームが4個のっているだけでした。ボーイ長さんに”チョコレートがかかってないよ”と言うと”そうでしたね”と溶かしたチョコレートの入ったホーローびきのポットを持ってきて順にアイスクリームの上にかけていきました。私の所に来るとニヤッと笑って”チョコレートはご婦人の所で終わってしまいました、あなたの分はございません”と言うではありませんか。しゃくにさわって”なんてこった”、”ついてねえや”などと知っているフランス語を並べ立てました。それを笑いながら聞いてから、ボーイ長さんは私の皿のアイスクリームにちょっぴりチョコレートの残りをかけて下さった、と見るまに、ドボドボっとチョコレートをかけ始め、ついにはアイスクリームが見えなくなってチョコレートの山の皿になってしまいました。そこで私もひるまず、フランスで鍛えたおなかですからと自分にいいきかせて、全部きれいにたいらげました。ゆうもあのあるボーイ長さんにお礼を言って、7人全員満足して、それで合計2万円の勘定を払いフロから帰りました。行って見たいけど、それはフランスの店の話じゃないか、なんて言わないで下さい。フロは表参道、南青山、そして横浜にもお店ができました。試しに、私は横浜みなとみらいの展示ホール店(そこから海が見えます)に行きましたが、デザートの大きさは普通の2倍あり、味、値段ともパリのお店と変わりなく、3、000円位で食事を満喫できます。ただしボーイさんはパリのようには走っていません。表参道の店にはちょっと太めで、気さくなフランス人マネージャー(受け付けに居て、席まで案内してくれますが、ギャルソンの代わりも、会計の代わりもいたします)がいますからフランス語で話しかけてみてはいかがですか。彼の名はEric RELLIER (エリック ルリエ)氏で南仏プロバンス地方のSAINT-TROPEZ (サントロペ)出身です。もちろん彼は日本語もペラペラですから、とっさのフランス語の言い回しにとまどっても大丈夫です。特にワインはエールフランス直送ですから変質していないフランス本国そのままのものが2000円位で味わうことが出来ます。エリック氏のいる フロ表参道店は、モリハナエビルの向かいの、伊藤病院の横の道を入って間もなくの所にあります。

追記 残念ながら平成10年12月27日をもって、東京の二店とも閉店になり9年の歴史を閉じます。不況の影響でしょうか、本当に良い店だったのに残念です。横浜のみなとみらい店は存続するということですから、これからは横浜にいきましょう。